メンタルヘルスに関する正社員5049人の意識調査結果
強いストレス状態にある正社員の割合は15.6%
抑うつ、不安、脱力感といったストレス反応をこの1週間に「しばしば」以上の頻度で感じている「強いストレス状態にある」割合は全体の15.6%でした。
※ストレス反応の測定方法
抑うつ、不安、怒りといった心理的ストレス反応と、脱力感といった身体的ストレス反応に関して「この1週間にどの位経験したか」を5件法で聞きました(「気が沈む」「いらいらする」「不安を感じる」「脱力感がある」)。
選択肢は「1.全く経験しない、2.たまにあった、3.ときどきあった、4.しばしばあった、5.大体いつもあった」。
簡易的に上記の回答の平均点をストレス反応の強さを示す得点として用いました。
平均スコア4点(=「しばしばあった」)以上のストレス反応を強いストレスとしています。
年齢別では、20歳代~30歳代前半で特に強いストレス状態にある割合が高い
年齢別に強いストレス状態にある割合をみると「20歳代後半」が最も高く20%が「しばしば」以上の頻度で感じていました。それ以降、年齢とともに割合は減少していく傾向が見られました。
また、「大体いつもあった」と、より深刻なストレス反応を示した割合が最も高いのは「30歳代前半」で約6%でした。
職場・仕事のストレス原因として16項目が抽出される。最も影響が強いのは「職場の人間関係」
ストレス反応の強さと会社、職場、仕事、上司要因との関係を検討するために、ストレス反応得点を目的変数として、会社、職場、仕事、上司各要因81項目を説明変数とする重回帰分析を行ないました(全130問から背景要因以外の設問及び多重共線性が認められる設問を除いた)。
その結果、有意な説明変数として16項目が示されました。
最も関係の強かった項目が「職場の人間関係」です。
続いて、目標や責任が重く、能力を発揮できていない等の「仕事の質」に関する項目、「会社の将来性」、仕事のために家庭や私生活を犠牲にしている人が多い職場(ワークライフバランス)といった「仕事の量」に該当する項目が並びました。
これらの結果は平成14年に厚生労働省が実施した「身体の疲れ及び精神的ストレス等の状況」に関する労働者調査結果(仕事、職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスの内容として「職場の人間関係の問題」、「仕事の量の問題」、「仕事の質の問題」、「会社の将来性の問題」があげられた)ともほぼ符合するものです。
詳細な設問概要は以下のとおりです。「人間関係」、「仕事の質・量的ストレス」、「会社の将来性」の他にも「会社の配慮(9)」や「人材マネジメント(10,12,14,16)」に関連する項目も抽出されています。
***p<.005、**p<.01、*p<.05 重相関係数(R)0.50、決定係数(R2)0.25
最も影響の強い原因としてあげられた「職場の人間関係」では、「人間関係で悩む職場」と回答した内、約40%が強いストレス反応を示しています
職場の人間関係で悩んでいる(=「悩むことが少なくない」)という回答者の内、約40%が強いストレス状況にあることがわかります。
一方、そのような状況にない職場という回答者の場合、10%程度におさまっています。
ストレス反応の強さと「従業員満足度」、「離職意向」に強い相関関係
ストレス反応得点と「従業員満足度」、「離職意向」の関係を調べると、次のように有意に高い相関関係が認められました。
- 従業員満足度・・・相関係数 0.41 (p<0.01)
- 離職意向・・・相関係数 0.38 (p<0.01)
従業員満足度の向上や離職率低下を図る上で、従業員のメンタルヘルスに配慮することは重要であることがわかります。
心理学では、ストレスの現れ方として、「職務満足の低下⇒心的ストレス症状⇒疾患」の順序で出現することが指摘されています。
このことから従業員満足度が、従業員のメンタルヘルス悪化の先行指標としても有効であると考えられます。
上記であげられたストレスの原因(ストレッサー)について会社・職場・仕事・上司といった広い観点で現状を適切に把握し、必要に応じて改善を図ることが重要と考えられます。
考察:企業が取りうる三つの打ち手
以上の結果を踏まえて、従業員のメンタルヘルスに関して企業が取りうる打ち手を考えると、次の三つがあげられます。
- ①職場・会社・仕事に関する環境/人材マネジメント状況の改善を図る
- ②現状の環境/マネジメント下においてストレス耐性をつけるための支援を行なう
(ストレス耐性:心身へ与えるダメージを和らげる対処の支援) - ③既に、メンタルヘルスを悪化させている従業員個人への個別支援
①は、職場・会社・仕事に関して、「職場の人間関係で悩んでいる」、「目標が高すぎる」、「長時間労働である」、「適切な評価がされていない」・・・といったストレスの原因と考えられる状況を作らない努力です。最も根本的な対応策です。
その為にはまず、自社の状況を把握し、必要に応じて改善を図ることが重要です。
②について、上記「4.」の図で、「人間関係で悩んでいる職場」の場合、強いストレス反応を示す割合は40%でしたが、逆にとれば60%は、そのような環境下にありながらも、心身へのストレス反応を抑えているといえます。
これはストレス原因に対する対処(心理学用語で”コーピング”)がうまくいっているものと考えられています(頼れる人・支えてくれる人の存在や手助けの有無が負担を軽くしてくれることがわかっています)。
このようにストレス耐性をつけることでストレス状況に陥らない割合を高めようとする方向が考えられます。
具体的な打ち手として、ストレスへの対処・コーピング等の考え方の啓蒙(教育研修)、適切な手助けを仕組みとして用意することなどが考えられます。
③については、既にメンタルヘルスを悪化させている従業員へのケア体制の整備や対応です。 専門医との連携等になります。